半歌仙「雪ちるや」の巻 連句解説 3
連句解説の続きです。
表の六句が終わり、裏に入ります。
森羅万象、あらゆるものを一巻に詠み込むのが連句ですので、
ここからは多彩な題材、人物を登場させていきます。
あれこれの値段をけふも書き換へて なおよ
裏に入って仕切り直しの第一句。
商売の様子です。あえて何の商売かは明示していません。
ですので、付けやすいです。
前句と併せてみてみましょう。
文化の日とて特になかりし 洋子
あれこれの値段をけふも書き換へて なおよ
文化の日にいつもどおりに営業している商店の様子になります。
国にいくつの何とか銀座 嘉子
前句の商店をさらに具体的にしました。
あれこれの値段をけふも書き換へて なおよ
国にいくつの何とか銀座 嘉子
日本各地にある商店街「〜銀座」にある商店にしたのです。
ここまでベタ付けで来ましたので、大きな展開が欲しいところ。
そこで恋句。
もう一度イルカのやうな恋をして 瑠衣
〈もう一度〉とあるので、過去にも恋をしていたわけですが、
時を経て、また〈イルカのような恋〉をしたというのです。
それがどういう恋かは読者の想像力次第ですが、弾みが良い恋句です。
国にいくつの何とか銀座 嘉子
もう一度イルカのやうな恋をして 瑠衣
やや強引にもってきましたが、商店街の恋模様になりますね。
ときにこうした力技がないと、大きな展開は生まれません。
(Photo by Joseph Ndungu)
それに対し、
呆けてさらに愛しき君よ 嘉子
恋をした相手は認知症だというのです。
もう一度イルカのやうな恋をして 瑠衣
呆けてさらに愛しき君よ 嘉子
意外な展開かつ、切ない恋になりました。
裏に入ると必ず恋句を詠まなくてはいけないのですが、
なにも恋は青春期の若者のことだけではありません。
世にあるさまざまな恋のありようを、
さまざまな角度から詠む必要があります。
そういった点ではこの一巻の見どころの一つになったのではないかと思います。
続きはまた次回。
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