半歌仙「庵の月」の巻 連句解説 6
昨日の記事の続きです。
「古志」9月号掲載の半歌仙「庵の月」の巻の解説です。
初折の裏、第五です。
おもしろき夢を持て来よあけ烏 まこと
「あけ烏」というと蕪村七部集の一冊『明烏』を思い出します。
俳諧のあたらしい夜明けを期して刊行された俳諧集です。
音もかすかに榾はくづるる 隆子
おもしろき夢を持て来よあけ烏 まこと
前句とあわせて読むと、
夜明けの囲炉裏を囲んでいる蕪村一門の姿が心に浮かんできます。
触れれば消ゆる邯鄲の翅 りえこ
続いて第六、有名な「邯鄲の夢」で付けています。
一旗揚げようと「邯鄲」という都市にやってきた青年・盧生。
当地で道士・呂翁に出会い、栄華が思い通りになるという枕を借りたところ、
それから50年あまり、盧生は富貴を極めた人生を送ります。
しかし、それは「一炊の夢」。
夢から覚めると、
宿の亭主が煮炊きしていた粟さえ、まだ炊き上がってもいませんでした。
この句は虫の「邯鄲」(秋)を詠んでいますが、
その名もこの「邯鄲の夢」の故事に由来します。
おもしろき夢を持て来よあけ烏 まこと
触れれば消ゆる邯鄲の翅 りえこ
ちなみに蕪村も邯鄲を詠んでいます。
邯鄲の市に鰒(ふく)見る雪の朝 蕪村
邯鄲の市場でフグが売っているのを見ているというのです。
俗を詠んでいますが、どこか儚さがある句ですね。
古くは中国でも河にのぼってくるフグを食べていたそうです。
フグを「河豚」と表記するのは、そのためと思われます。
「三句の渡り」を見てみましょう。
音もかすかに榾はくづるる 隆子
おもしろき夢を持て来よあけ烏 まこと
触れれば消ゆる邯鄲の翅 りえこ
それぞれの句は良いのですが、
展開としては少し弱かったですね。
これは捌きの責任です。
続きはまた明日。
どうぞよき一日をお過ごしください。
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