「古志」深川句会(5月)を終えて 2
きのうの続きです。
第二句座、席題。
特選句からいくつか。
薔薇挿せばぴしと目覚める他の鉢 越智淳子
薔薇がもつ凛とした佇まい、
そしてそれがもたらす緊張感をうまく表現しています。
それでいて緊張感だけに終わらず、
他の鉢も目覚めていく、
その広がっていく感じが、まさに広やかで良いですね。
白扇やひと拒むにはあらねども 金澤道子
こちらも白扇の凛として人を寄せつけない感じを前提にしているのですが、
そこからさらに一歩踏み込んで、
「拒んでいるわけではない」というところまで深く詠んでいます。
人を拒んでいるわけではないのだけれど、どうしても白扇にこだわりがある。
それゆえ人が寄り付かない。
原因は白扇だけのせいではないのかもしれませんが、
この白扇の人物はそれを肯っている(諦めている)ようにも感じますし、
同時に一抹の寂しさも感じられます。
心の機微をうまくとらえています。
囮鮎手早く竿につけくれし 丹野麻衣子
当人は釣りの初心者で手慣れていないのでしょう。
「つけくれし」というちょっとしたフレーズから、
そういった背景が奥行きをもって見えてきます。
ちょっとした一コマながら、しっかりと奥行きを表現できるのが俳句の魅力のひとつです。
囮鮎売るよ国道曲がるたび 丹野麻衣子
あらためて読むと、
国道ではなく、県道くらいが、よりリアルかもしれません。
能果ててこの世に残す扇かな 篠原隆子
涼を取るための道具であるがゆえに、
扇は夏の季語となっているわけなので、
この句は逸脱した季語の使い方といえると思います。
本意を逸脱している句は採らないという方もいらっしゃいますが、
文学は逸脱してこそのものです。
ぎりぎりのところを攻めていかないと、あたらしいものは生まれません。
能はあの世とこの世の境界を表現しますが、
そうした能の本質をうまく扇で描き出した一句ではないでしょうか。
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