半歌仙「龍門」の巻 連句解説 3

連句解説の続きです。


初折の裏の第七、半歌仙の終盤に入ります。

場面は海外に飛びます。


 撮り鉄なれば着ぶくれて待つ  洋子

森深く白鳥城に月冴えて  隆子


この白鳥城はドイツのノイシュヴァンシュタイン城。

「眠れる森の美女」の城のモデルとなったことでも有名です。

前句と併せて読むと、撮り鉄がドイツまで旅行に来ていることになります。

白鳥城も撮っているわけです。


森深く白鳥城に月冴えて  隆子

 きりきり迫る父の亡霊  洋子


第八、シェイクスピアの「ハムレット」を想起させます。それも前句による効果。


 きりきり迫る父の亡霊  洋子

漱石が文机におく征露丸  りえこ


第九、「征露丸」は「正露丸」の旧表記。

きりきりする胃病に苦しんだ漱石ですが、

日露戦争勝利に浮かれる日本を批判していました。

ちなみに日露戦争後、日本では怪談や幽霊譚が流行したといわれています。

前句とあわせて読むと、当時の切迫した空気感が出てきます。


漱石が文机におく征露丸  りえこ

 卒業生の読み仮名覚ゆ  政治


第十、漱石が教員をしていたことを思い出させます。

卒業式で名前を読み上げなくてはいけないのですが、生徒の名前を覚えておらず、苦労していたという状況になります。

胃痛の原因が亡霊から教員生活に転換されています。


第十一、ほんらい花の定座ですが、発句が花ですので、花は詠みません。

ただ、それでは寂しいので、すこし外して桜鯛を出してもらいました。


桜鯛膳をはみ出す御七夜よ  淳子


一転してお祝いの鯛です。ここでは御七夜なのですが、前句に続けて、これを卒業祝いにしてしまうと、物語のように時系列でつながってしまいます。ここでは場面を転換する必要がありました。


挙句(あげく、最後の句)です。


桜鯛膳をはみ出す御七夜よ  淳子

 裏の馬屋のにほひのどけし 美奈子


宴席で盛り上がっているのですが、座敷の裏手からは馬屋の匂いが漂ってくるというオチです。この挙句をもって、のどかに半歌仙を巻き納めることになりました。


以上が半歌仙「龍門」の巻になります。


一句、一句のおもしろさはもちろん、

付句による二句の関係性がもたらす効果、全体の流れなど、

連句にはさまざまな味わい方があります。


いざない、いざなわれる、その豊かさは連句ならではのものですが、

現代の俳句にも必要なものだと感じています。


「古志」4月号には一茶双樹記念館での講演「一茶と双樹―「利根川は」の巻を読む」も掲載しています。一茶と秋元双樹が巻いた連句を解説したものです。


こちらも併せて読んでいただければ、

より連句が親しいものに感じていただけると思います。


同月号掲載の


木下洋子さんの「You Tube歌仙のススメ」

篠原隆子さんの「歌仙は踊る」


いずれも連句(とくにオンラインでの)の楽しさ、奥深さを教えてくれます。

ぜひご一読ください。

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