半歌仙「龍門」の巻 連句解説 2
連句解説の続きです。
半歌仙「龍門」の巻、初折の裏に入ります。
表まではさまざまな制約があるのですが、
裏に入ってからはリミッターを外すことが大事になってきます。
恋の句なども詠まなくてはいけません。
裏の第一句。
きつつきは天下の悪を懲らしめに 美奈子
前句、鬼の捨て子(みのむし)を受けて、正義感に燃え立つキツツキを描いています。
連句ではうまく主語を変えていくことも大きなポイントなのですが、
ここではキツツキが主語になっており、前句の木(枝)の姿をうまく残しつつ転換することができています。
以下、恋の句になります。
きつつきは天下の悪を懲らしめに 美奈子
ママの不実を彼に言ひつけ 隆子
光君紫陽花にまた涙ぐみ 淳子
第二、前句の勧善懲悪を受けて、「ママの不実」を詠んでいます。ママとは母のことなのか、女主人のことなのか、そこをどう受け取るかは連衆(および読者)に委ねられています。
連句では「不実」といった恋を連想させる語が入るだけで、恋の句とみなします。
第三、前句の不実(恋)を受けて、『源氏物語』の世界に転じました。
ちなみに紫陽花は和歌ではあまり詠まれていません。
王朝時代には、あまり愛されていない花です。
『源氏物語』にも登場しませんが、そこがミソです。
原典どおりでは表現になりません。
光君紫陽花にまた涙ぐみ 淳子
街を見晴らす墓地の涼しき 美奈子
この頃は立ち食ひ蕎麦の値も上り まこと
第四、鎌倉の長谷寺のような景色です。
古典の世界と現在の世界を橋渡すような付けです。
第五、しっかり現在に転じています。
墓参りのあとに、値段を気にしながら立ち食いそばを食べていると思うと、切ない感じがあります。庶民のかなしみを詠むことで、前々句の華やかな王朝絵巻からしっかり離れています。
この頃は立ち食ひ蕎麦の値も上り まこと
撮り鉄なれば着ぶくれて待つ 洋子
第六、墓参の人から鉄道オタクにうまく転換しています。
立ち食いそばを食べている人物=墓参りの人
だったのが、
立ち食いそばを食べている人物=寒い中、駅で長時間カメラを構えていた撮り鉄
に変わったのです。
連句は小説のようなひとつづきの物語ではありません。
句が付けられるたびに、がらっと転換していき、主語も変化していきます。
はじめは慣れる必要がありますが、
慣れてしまうと、そこが面白くなってきます。
【続く】
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