「古志」深川句会(4月)を終えて
第一句座、特選句からいくつか。
朧夜の朧のままに源氏読む 安藤文
『源氏物語』をひもといているのだけれども、
朧のまま読み進めている状態であることを吐露しています。
別の解釈としては、源氏に描かれている人間の愛の不可思議、
ひいては人間という存在の脆さ儚さ、この世の無常といったものを
〈朧〉と捉えているというふうに読むこともできます。
さらにはその源氏を読んでいる自分自身もまた〈朧〉な存在であるというわけです。
安藤さんはいま『源氏物語』と格闘中とのこと。
関西を一人旅するなど、おのれを深めているところです。
若い作家だけに、ひとつひとつの積み重ねが結実する日が楽しみです。
かきくけこ「こ」はころばない老の春 那珂侑子
シニア世代向けの「かきくけこ」。
「か」は書くこと。「き」は興味を持つこと。「く」は工夫すること。
「け」は決断すること。「こ」は転ばないこと。
この句では〈ころばない〉に焦点を合わせて、
自分自身に言い聞かせるかのような調子で詠んでいます。
軽妙な調子のなかにも、切実な老の悲哀を感じさせます。
海神の大きなつばさ潮干潟 篠原隆子
〈海神〉はわたつみ、わだつみと読みます。
この句においては大綿津見神を指しています。
潮が引いてあらわになった砂地を海神の翼に見立てているのですが、
まるで干潟ごと飛び立っていくかのような、
雄大で神秘的な印象を読者にもたらすことに成功しています。
つづきはまた明日。
どうぞ良き一日をお過ごしください。
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